メルセンヌ素数にまつわるエトセトラ

(1) 素数にハマった神学者・メルセンヌ
 マラン・メルセンヌ(1988〜1648)の本職はカトリックの神学者でした。宗教者とはいえ、非科学的な思想を嫌い、哲学者のデカルト、天文学者のガリレオやホイヘンスなどの学者との交流を広げました。その学者達の中に数学者のピエール・ド・フェルマー(1607?〜1665)もいました。
 フェルマーも素数が大好きな数学者で、素数を探す数式を考えていました。そして、フェルマーは2に2のn乗を乗じた数に1を足すと素数を作れるのではないかとの予想を立てます(フェルマー素数)。
 1640年のクリスマスの日、フェルマーはメルセンヌへ、新たな素数に関する法則を見つけたとの手紙を送ります。その法則とは、4で割って1が余る素数は2つの平方の和で表せるというものです。
 例えば29は「7×4余り1」ですが、「52」と「22」を足した合計でもあります。これは、手紙を送った日にちなみ「フェルマーのクリスマス定理」と呼ばれています。
 (クリスマス定理についてはFermatのクリスマス定理[インテジャーズ]をご参考下さい)

(2) 数学界に衝撃!メルセンヌ素数
 このフェルマーの素数公式の発見に刺激されたかどうかは定かでありませんが、メルセンヌもフェルマーに負けじと、1644年、メルセンヌ素数の式を発表しました。

2n-1 (n=素数)

 同時に、この数式のnが2,3,5,7,13,17,19,31,67,127,257であれば素数になることを発表したのです。
 メルセンヌの数式は、たくさんの素数が生み出せるような万能な数式ではありませんでしたが、当時の数学者は、この数式のシンプルさと、当時、大きな桁を計算できる計算機もないのに「2257-1」をどうやって素数と判断したのかという点に注目しました。ちなみに「2257-1」は自然数にすると77桁にもなります。もしかするとメルセンヌは、この数式以外にも秘密の計算式を持っているのではないか…と疑う学者もいました。

(3) 男は黙って素因数分解
 実は、メルセンヌが発表した「素数」のうち「267-1」と「2257-1」は、素数ではありませんでした。
 「267-1」が素数ではないことがわかったのは、メルセンヌの発表から232年経った1876年のこと。素数判定法を研究していたフランスの数学者エドアール・リュカ(1842〜1891)が素数でないことを発見しました(リュカはこのとき「2127-1」が素数であることも確認しています)。ただし、これは「素数ではない」ことがわかっただけで、素因数分解ができたわけではありません。
 そして、この数が素因数分解されたのは、さらに27年後の1903年のことでした。しかも、その結果は劇的な形で発表されたのです。
 当時、ニューヨークで開催されていたアメリカ数学会の席上で、数学者フランク・ネルソン・コール(1861〜1926)は、大勢の数学者の前に登壇すると、いきなり、黒板に下記の数式を書き殴りました。

 M(67) = 193707721 × 761838257287

 さらに、コールは、ひと言も語ることなく、この素因数分解に至る過程を、ひたすら黒板に書き進めました。そして書き終えると、コールは黙って自分の席に戻っていったのです。この直後、数学会の参加者は、コールに対して沸き上がるような拍手を送ったと伝えられています。
 後日談として、コール自身、これをその場で思いつきで解明したのではなく、3年間、毎週日曜日を費やして素因数分解をしたと語っています。

 「2257-1」が素数ではないことがわかったのは、1930年のことです。
 「267-1」が素数でないことを見破ったリュカの数式をさらに発展させようとしていたアメリカの数学者デリック・ヘンリー・レーマー(1905〜1991)は、その改良した数式が正しいのか確認するために、メルセンヌ素数のリストを作ることにしたのです。その過程で「2257-1」が、素数ではないことが確認されました。
 レーマーの素数判定法は「リュカ・レーマーテスト」と呼ばれ、現在もメルセンヌ素数の判定方法として使われています。
 逆に、メルセンヌが「素数」と発表した11種類に入っていないにもかかわらず、素数だった数も見つかりました。「261-1」(1883年発見)、「289-1」(1911年発見)、「2107-1」(1914年発見)は、メルセンヌが素数と発表したリストから漏れていたものの、素数でした。

メルセンヌ素数一覧
番号発見年
(51)282589933-124,862,0482018
(50)277232917-123,249,4252018
(49)274207281-122,338,6182016
48257885161-117,425,1702013
47243112609-112,978,1892008
46242643801-112,837,0642009
45237156667-111,185,2722008
44232582657-19,808,3582006
43230402457-19,152,0522005
42225964951-17,816,2302005
41224036583-17,235,7332004
40220996011-16,320,4302003
39213466917-14,053,9642001
3826972593-12,096,9601999
3723021377-1909,5261998
3622976221-1895,9321997
3521398269-1420,9211996
3421257787-1378,6321996
332859433-1258,7161994
322756839-1227,8321992
312216091-165,0501985
302132049-139,7511983
292110503-133,2651988
28286243-125,9621982
27244497-113,3951979
26223209-16,9871979
25221701-16,5331978
24219937-16,0021971
23211213-13,3761963
2229941-12,9931963
2129689-12,9171963
2024423-11,3321961
1924253-11,2811961
1823217-19691957
1722281-16871952
1622203-16641952
1521279-13861952
142607-11831952
132521-11571952
122127-1391876
112107-1331914
10289-1271911
9261-1191883
8231-1101772
7219-161588
6217-161588
5213-141456
427-13-
325-12-
223-11-
122-11-

(4) メルセンヌ素数の番号について
 上の表で、番号48〜51は括弧書きとなっています。これは仮の番号です。
 「282589933-1」〜「243112609-1」の間には未知のメルセンヌ素数が存在している可能性があるためです。双方の数の差は、桁にすると1000万桁を超えます。
 事実、2008年にメルセンヌ素数「243112609-1」が発見されましたが、その2週間後に、この数よりも小さいメルセンヌ素数「237156667-1」が、さらに約7か月後には「242643801-1」が発見されました。
 2018年12月に2400万桁を超えるメルセンヌ素数が発見されましたが、52個目のメルセンヌ素数は、もしかすると、2400万桁よりも小さなメルセンヌ素数かも知れません。もし、このような素数が発見されると、現在、最大の素数は「52番目のメルセンヌ素数」となります。
 なお、番号48のメルセンヌ素数「257885161-1」未満の数で、未知のメルセンヌ素数は存在しないことが証明されています。

(5) メルセンヌ数の不思議
 素数が無限にあることは紀元前3世紀に証明されていますが、メルセンヌ素数の式のnに、星の数以上にある素数を当てはめても、今のところメルセンヌ素数は50個しか発見されていません。言い換えるとそのほとんどは素数ではないのです。
 メルセンヌ素数の不思議な性質として、すでに本編でメルセンヌ素数と完全数は表裏一体であることを解説していますが、このほかにも不思議な性質があります。
 メルセンヌ数は素数でないものも含めて2進法にすると、すべて1が並ぶのです。しかも、1の数は乗数と同じ数になります。2018年1月に発見された史上最大の素数を2進法で表すと1が77,232,917個も並びます。逆に2進法からみると、すべて1になる2進法はメルセンヌ数になります。

メルセンヌ数と2進法
メルセンヌ数自然数素数2進法
22-1311
23-17111
24-1151111
25-13111111
26-163111111
27-11271111111
28-125511111111
29-1511111111111
210-110231111111111
211-1204711111111111
212-14095111111111111
213-181911111111111111
214-11638311111111111111
215-132767111111111111111
2n-11がn個並ぶ

※メルセンヌ素数が出てくる本編の話

素数姫の素数入門

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Created 2016/2/14 , Last Update 2021/10/9
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