素数に恋する女

素数に恋する女

♥第8話♥

素数とは整数の素となる数である

まゆ:この前「素数に恋する女」のドラマ化、漫画化、映画化をことごとく否定されて、心が折れてしもたわ(※1)

とも:「ことごとく否定」って、私が血も涙もない女やと思われるやん

まゆ:でもなぁ、ともの言論弾圧に、私の素数への思いは今まで以上に熱く燃え上がったでー

とも:言論弾圧って、大げさやなぁ。で、次は何を思いついたんや

まゆ:グッズ展開や!ジャジャーン!

とも:な、なにこれ。ものさし?

まゆ:素数ものさし〜! (※2)

素数ものさし

とも:え。あ、あの「京都大学」って書いてるで。まゆ、京大に通ってたか?

まゆ:京大出身の友だちに買ってきてもらったんやけどな。目盛りが素数やねん

とも:ほんまや。2、3、5、7、11、13、17しか目盛りがない。見るからに不便そうやで

まゆ:不便? これやから文系女子は…

とも:文系とか関係なくても、使いにくいやろ。これw じゃあ、このものさしで1cmの線を引きたい時どぉするの?

まゆ:2cmと3cmの目盛りの間を利用して線を引けばええねん。便利ぃ〜♪

とも:じゃあ、このハガキの短い辺を測ってぇや?

まゆ:簡単簡単、超簡単。3と13の間にぴったりフィット!

とも:私、疲れてるんやろか。なんか便利に思えてきたわ

まゆ:すごいやろ。欲しいやろ

とも:悔しいけど、なんか欲しくなってきた(※3)

まゆ:このものさし、これでも、1cm〜17cmまで1cm刻みで測れるんやで(※4)

とも:ホンマに? ところで、下の細かい目盛りも、素数なん?

まゆ:鋭い! mmの素数になってるねん。気合いさえあれば、mmもすべて測れるで(※5)

とも:このものさしでmmを測るのは大変そぉや

素数ものさしで、長さを測ってみよう

まゆ:「4以上の偶数は、2つの素数の和で表せる」「7以上の奇数は3つの素数の和で表せる」

とも:いきなり、何?

まゆ:ゴールドバッハさんっていう数学者のお言葉

とも:ああ、この前、チラッと話に出てきたなー。シルバーモーツアルトさん(※6)

まゆ:あんた、むりやり間違(まちご)うとぉやろw ゴールドバッハさんな。話を戻すと、素数ものさしでは「素数の差」を利用して素数ではない数を導き出したけど、ゴールドバッハさんは「素数の和」で“素数ではない整数”を表せる…と考えたんやな

とも:考えたって、どういうこと

まゆ:素数さえあれば、素数でないすべての整数も作れるはずなんやけど、証明はされてないねん。だから「ゴールドバッハの予想」って言うねん

とも:偶数のほうやけど、奇数と奇数を足せば必然的に偶数になるんと違うの? 素数って2以外すべて奇数やん

まゆ:そぉ思うやろ。でも「すべての偶数」が「奇数の和」ではなく「素数の和」というところが重要やねん。4だって2+2で奇数の和ではないけど、素数の和やろ

とも:なるほど。もしかしたら素数を足しても表せない偶数があるかもしれない…ということか。単純やけど、奥が深いなぁ

まゆ:ちなみに「7以上の奇数は3つの素数の和で表せる」ほうは「弱いゴールドバッハ予想」って言われてるねんで

とも:「弱い」って、ゴールドバッハって強いゴールドバッハと弱いゴールドバッハがおるんかw

まゆ:どちらも同じゴールドバッハさんやw

とも:「弱い」って何に対して弱いのん?

まゆ:最初の予想が証明されれば、自動的に「弱いほう」も証明できてしまう。なぜかというと、2つの素数の和がすべての偶数と決まってしまえば、そこに何かを足して奇数の和にするには「3」を足すだけでええねん。でも「弱いほう」だけが証明されても、偶数のほうの予想は証明できない。こういう力関係で強弱があるんやな

とも:おもしろいな。ゴールドバッハ

ゴールドバッハ予想

まゆ:弱いほうは、かなり証明に近づいてきていて「3以上のすべての奇数は、5個までの素数の和で表すことができる」ことが証明されてる

とも:じゃぁ、強いほうはどうなん?

まゆ:強いほうについても400(けい)までの偶数で成立することがわかってる

とも:400京って、どこのジンバブエの話なん! つまり200京個の偶数でゴールドバッハの予想が成立することを調べあげたんか。凄いと思うけど、数学者って暇なんかw

まゆ:前から聞こうと思ってたんやけど、ともの雑談によく出てくる「ジンバブエ」ってなんやねんなw(※7)

とも:アフリカ南部の国で超インフレな国やってん。一時は1アメリカドルが1200(がい)ジンバブエドルのレートにまでなったことがあるんやで。垓やで垓。京より上やで。当時はアメリカの1ドルを両替したら、抱えきれんぐらいの札束になったんやでw(※8)

まゆ:ともは、お金の話をするときは生き生きしてるなぁw

とも:話を戻すけど、素数を足しあわせてもできない偶数が発見されると、その時点で「ゴールドバッハの予想」は終わりなんやろ

まゆ:そういうことになるなぁ

とも:じゃあ、私、10年以内に予想が外れるに400京ジンバブエドルを賭けるわ!(※9)

♥ 脚注 ♥

※1 「番外編第2話 徹底討論!?ドラマ化、漫画化、映画化を目指すには」を参考のこと。

※2 素数ものさし
 京都大学と不便益システム研究所が開発し、京都大学生協で販売しているものさし。売価は税込み577円で素数(2015年現在)。
→関連リンク:素数ものさし (不便益システム研究所)
[2015年11月19日追記]
「素数ものさし」の開発元・不便益システム研究所のFacebookで、このページを紹介していただきました。こちらこそ、ありがとうございます。

※3 ともは文具マニア
 ともは無類の文具好き。社会人になった今でも神戸ノートの「れんらくちょう」を電話メモとして愛用している。趣味は東急ハンズを(1人で)うろつくこと。

※4 クリスティアン・ゴールドバッハ (1690〜1764)
 ドイツの数学者。ロシア皇帝ピョートル2世の家庭教師などを務める。

※5 素数ものさしのmmの目盛り
 mmの目盛りは、下記の41か所(素数)の長さに振られている。
 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47, 53, 59, 61, 67, 71, 73, 79, 83, 89, 97, 101, 103, 107, 109, 113, 127, 131, 137, 139, 149, 151, 157, 163, 167, 173, 179
 なお「16cm」はcmの素数の差で測れないが、mm側を使えば「163mm-3mm」「167mm-7mm」「173mm-13mm」「179mm-19mm」で測ることができる。ちなみに16mmは「19mm-3mm」で測ることができる。
 また「25」の整数は素数の差で測れないが、素数の和を利用すれば「2+23」「7+7+11」等で測ることができる。

※6 「第2話 素数とは純愛の数である」を参考のこと。

※7 垓(がい)
 1垓は1京の1万倍の数。10の20乗。

※8 ジンバブエドル
 20世紀後半まではアメリカドルよりも価値は高かったが、その後、経済政策の失敗によりハイパーインフレに陥った。2008年10月の為替レートは1アメリカドルあたり1200垓ジンバブエドル(正確にはデノミにより10桁が切り捨てられ12兆ジンバブエドル)にまで下落。2009年には「100兆ドル」紙幣が発行された。
 ともは職業柄、「天文学的数」と言うべきところを「どこのジンバブエの話やねん!」と表現することが多い。

※9 最近のジンバブエドル
 インフレが止まらないため、2015年6月に通貨として廃止された。現在、ジンバブエではアメリカドルと南アフリカランドが通貨として流通している。

素数姫の素数入門

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LastUpdate 2015/10/08
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