素数とは純愛の数である

とも：なんで、まゆは素数にハマったん？

まゆ：うーん、強いて言うなら一途なところかな

とも：どゆこと？

まゆ：素数の条件って、何か知っとぉ？中学で習ったやろ(※1)

とも：確か、１とその数でしか割れない数が素数やんなぁ？(自信なさげｗ)(※2)

まゆ：わかってるやん。そこが一途なんよ

とも：逆に、あんたが何、言うとぉか、わからへんわ

まゆ：素数は１と自分だけ。つまり素数って2人だけの世界しかもってないねん。素敵やろ。“素敵な数で素数”やねん（どやぁ！）

とも：（なんか、メルヘン入っとぉで）

まゆ：偶数とか5の倍数とか、私から言わせれば浮気者！

とも：2とか5も素数と違うの？

まゆ：………ともも、素数の魅力に気づいたな！(※3)

とも：なんでやねん!

まゆ：でもな、素数はそれだけやないねんで。「素数」というだけあって、「数字の素(もと)」となる数やねん

とも：「数字の素」?

まゆ：3つまでの素数を足せば4以上のすべての整数を作ることができるねんで。すごいやろ!! 惚れるやろ!!

とも：惚れはせんけど……2+2=4、2+3=5、3+3=6、5+2=7、5+3=8、7+2=9…13+2+2=17…ホンマや

まゆ：これを「ゴールドバッハの予想」って言うんやけど、これは後で話するわ(※4)

とも：あとで話って、あんたの素数話はまだ続くんかい!

まゆ：あたりまえやん。それになぁ、3つまでの素数がくっつけば、いろんな整数が産まれるねんで。人生に例えると、いろんな人と出会い、そして結婚して子供が生まれるよぉなもんやろ。素数ほど愛情のあふれる数はないで!

とも：数字に強引な感情移入するな(笑)。でもな、いつのころからか、まゆの話から1の存在が消えてるんやけど。素数が「数字の素」やったら、1も素数やん

まゆ：さすが「彼氏いない歴」が長いともやな。1に気づくとは!

とも：失礼な! せめて「今はいない」って言え!

まゆ：今の数学では1は素数の仲間には入れてもらわれへねん。まさに1はひとりぼっち

とも：今の数学では…って?

まゆ：素数の概念が発見されたころは、1も素数と考えられててん。でもな、数学が発展して、素数が整数の世界で重要な数であることがわかってくると、1が素数だと、いろいろ不都合が出てくるようになってきたんやなぁ

とも：へぇ。たとえば?

まゆ：「素因数分解の一意性」って知っとぉ?

とも：え、何?　ん−、それっておいしい?

まゆ：数学嫌いのともでも、高校の数学で習っとぉはずや(笑)。わかりやすく言えば、ある数を素因数分解したときの結果は、素数の積の1種類しかないという基本定理

とも：そうやったっけ?　例えば10を素因数分解したら「2×5」と「5×2」の2通りできるやん

まゆ：そぉいうのは、2と5の掛け算しかないから1種類でええねん!　彼氏いない歴が長いと性格までひねくれてくるんやな(笑)

とも：ことごとく失礼なやつやな。あんたは!(怒)　誰でも、そう考えるやん

まゆ：つまり1が素数やと…

とも：あー、わかったわ。10を例にすると、2×5×1もそうやし、2×5×1×1×1×1…も素因数分解の答えになる。つまり、無限に答えができるわけやね

まゆ：その通り!　1を素数とすると「素因数分解の一意性」が成り立たなくなるねん

とも：1を素数にすると、数学にとって都合が悪いんやな。素数の仲間に入れてもらえん1が可哀相…これがマスハラってやつか。ひとりぼっちでも強く生きていくんやで!(※5)

まゆ：何を1人でぶつぶつ言うとぉん!　あんたも1に感情移入するな(笑)

とも：感情移入やない。同情や!

♥ 脚注 ♥

※1　2010年度まで、素数は中学生の数学の学習範囲だったが、2011年度の文部科学省学習指導要領の改訂により、素数は小学校5年生の算数で学習することになった。

※2　素数
　第2話で、やっと「素数の解説かよ！」というのはさておき、素数は、ともが言うとおり「1と自分自身のみでしか割れない数」。
　素数は自然数上にランダムに出現し、規則性がないため、昔から多くの数学者を魅了している。

※3　まゆが素数にハマったきっかけ
　高校2年の夏休みの自由研究のテーマに「素数」を取り上げる。その際、その不思議な性質にのめり込んでしまった。したがって、まゆには、アイスクリーム、セミだけではなく夏休みの宿題も相まって「素数は夏の数」のイメージが根強くある。
　その甲斐もあって、電話番号下4桁や車のナンバーを見ると瞬時に素数を見分ける眼力を身につける。好きなアイスクリームはサーティワン。好きなコンビニはセブンイレブン。好きな国道は神戸を東西に貫く2号線と神戸で終点の43号線。

※4　「第8話　素数とは整数の素となる数である」を参照のこと。

※5　マスハラ
「Mathematical harassment」の略。数学的な論理を使って、相手に精神的苦痛を与える行為。ともはまゆの素数の話が苦痛らしい。