まゆ:今日の同窓会。久しぶりにいろんな友達に会えて楽しかったわ。
とも:楽しかったけど、結局、私とまゆは、こうやって最後まで一緒に居酒屋でダベる運命なんか?
まゆ:しょうがないやん。親友の宿命やん。
とも:宿命って…。そういえば、まゆと親しくなったのは、修学旅行の時やったっけ?
まゆ:そうやったねぇ。ともと同じ部屋になったんよ。で、とものグループが寝る前にトランプで盛り上がってた。今やから言えるけど、うるさかったわぁ。
とも:うそつけ! 混ぜてほしそうにしてたから、私が声をかけたんやん。
まゆ:いや、あれは、ともが私らを強引に仲間に引き入れたんや。近くにいる人に手当たり次第、絡もうとする酒癖は、あのころからあったんやなぁ(笑)。
とも:高校生やのに、お酒飲むわけないやん。でも、あの夜はババ抜きとか、し…いや八並べとか、いろんなトランプゲームを夜通ししてたもんなぁ。
まゆ:八並べ? それを言うなら七並べやろ。なかでも大貧民は盛り上がったなぁ。
とも:(今日はあの話はせえへんねんな。よかった…)
それをいうなら大富豪やん!
隣の席の男性:大富豪と言ったら、素数でしょ!
まゆ・とも:えっ!
隣の席の男性:お嬢様方、初めまして。今宵は「素数王子ゼータ」と名乗らせてください。
とも:ここに来て、変な…ではなく、新たな登場人物が…。というか、そのシャツ…。
ゼータ:これは素数を愛する者のユニフォームです!
とも:そ、そうなん? まゆ。
まゆ:そやで。私も白衣の下は素数Tシャツやで。
とも:そんなシャツがあるんや…(唖然)。白衣で居酒屋に来るのもどうかと思うけど…。
ゼータ:お嬢様方、今、大富豪の話をしてましたよね。今、素数界では「素数大富豪」が大ブーム。当然、そこの白いドレスのお姫様はご存じですよね。※1
まゆ:もちろんです!
とも:姫って、この人、知り合いなん?
まゆ:知らないような。知ってるような…。
ゼータ:私のことは、気になさらないでください。
とも:なるって! そのシャツだけでも変やのに、さっきからトランプをシャッフルしながら話しとぉし。
ゼータ:ではカードをお配りしますよ。
とも:え、いきなり!?
〜巷で噂のトランプゲーム「素数大富豪」とは?〜
まゆ:今から素数大富豪が始まるんやん。
とも:私も参加してるのん?
ゼータ:もちろんです。素数大富豪は2人から6人程度で楽しめるカードゲームです。
とも:その前に、その素数大富豪ってルール知らんねんけど。
まゆ:ルールは簡単。大富豪のルールで素数になるような札を出せばええねん。
ゼータ:姫様。ゲームの前に白いドレスのボタンをお留めになっていただけませんか? 私もタキシードのボタンを…。
とも:…それ、タキシードやなくってジャンパー。ボタンやなくってファスナー…。
まゆ:あ、そうやった。カンニング行為になるから素数表が入ってるものを身につけたらあかんかったんや。ドレスのボタンを閉めなければ。
とも:…それ、薬局にいる人が着とぉ白衣…。
ゼータ:では、茶髪のお嬢様からどうぞ。
とも:その前に質問。カード配られたんはええんやけど、私ら3人しかおらんのに、カードの山が4つもあるで。
まゆ:これは山札。出せるカードがなければ1ターンに1回だけ、ここからカードを取ることができるねん。ほかにも役割はあるんやけど、そのときに教えるわ。
とも:素数のカードを出すって言ってったっけ? じゃあ [♠2] で。
ゼータ:初めてにしては筋がいい! では、姫様どうぞ。
まゆ:では [♥3] で…
〜このような調子でゲームは進み、3回目のともの番〜
とも: [♥K] が出とぉやん。これに勝つカードってあるか?
ゼータ:もし、ジョーカーをお持ちでしたら出してみてください。ジョーカーは最強のカードとなってます。
とも:じゃあ、持ってるから出してみるかな。
ゼータ:では、1枚札でこれ以上強いカードはありませんので、場を流します。
まゆ:流したカードは山札へ。
とも:今、気付いたけど、Aと2以外の偶数のカードは、絶対に余るんと違うん?
ゼータ:その心配は及びません。出せるカードは1枚だけではありません。2枚でも3枚でも4枚出しでも大丈夫です。
とも:4枚出しもできるんや! ということは、カードの数字を合計して素数にするんかな?
まゆ:違う違う。カードの数字の合計やなくって、組み合わせにするねん。例えば2枚出しやったら [♣4] と [♦7] のカードを出して「47」。4枚出しやったら[♣2] [♦3] [♠5] [♥7] を出して「2357」の素数にするねん。簡単やろ。
とも:なるほど、それは簡単やわ。
ゼータ:では、もう一度、茶髪のお嬢様からどうぞ。
とも:じゃあ、2枚出しに挑戦してみようかな。[♣3] と [♠A] でメルセンヌ素数31。
まゆ:おお、やるなぁ。じゃあ、私は [♠5] と [♥7]で「グロタンカーット!」。
とも:ちょ、ちょっと、こんなところで何を叫んでるねんな。
ゼータ:これは秘技「グロタンディーク素数切り」です。「57」は素数ではありませんが、強制的に場を流すことができます。※2
とも:な、なんで?
ゼータ:詳しくは脚注を。
〜三宮の居酒屋で突如始まった素数大富豪は、いよいよ終盤に〜
とも:3枚出し、めっちゃ難しい。それに、私が持ってるカード、全部、偶数やん。
ゼータ:そういう場合は、山札から1枚カードを取ることができます。
とも:わかった。じゃあ、山札から… [♥9] か…。奇数なんはええけど、これから素数って、うーん。
ゼータ:3枚出しの場合、3桁にこだわらなくても、最大6桁の素数を作ることができます。
とも:一か八か、勝負や!
[♣10] [♠8] [♥9]
1089って素数っぽいやん。
ゼータ:姫様。判定を。※3
まゆ:1089は素数ではありません! 今、出した[♣10][♠8][♥9]のカードは自分の持ち札に戻して、さらに山札から3枚取って自分の持ち札に入れて!
とも:え〜、もうちょっとでカードがなくなるところやったのに!
まゆ:次は私の番か…2回目のパスで。
ゼータ:では、私は [♣Q] と [♦4] と [♠6] で「1246」。
とも:ちょっと、偶数やん!
まゆ:あっ!
ゼータ:続けて [♣2] 、そして [♠7] 。
とも:な、何が始まるのん?
ゼータ:さらに [♥8] [♥9]で「89」。
まゆ:これは、素因数分解に現れる素数を出せば合成数を出すことができる必殺技「合成数出し」。
ゼータ:そう。合成数出しは、合成数をわざと出して、その後に素因数分解カードを出せる必殺技なのです。これで私の持ち札はなくなりました。茶髪のお嬢さん、計算を。※4
とも:2×7×89は…1246。お、お見事!
まゆ:鮮やかです。王子!
とも:次は私の番やけど、ほとんど勝負がついとぉやん。 [♦7] と [♥A] で「71」。
まゆ:[♠Q] と [♦K] で「1213」の素数。私の勝ちぃ!
とも:素数にはあんまり興味なかったけど、なんか、悔しい!
ゼータ:初心者の方がやる場合は、偶数の札を減らしたカードで楽しむ方法もあります。素数判定や素因数分解に慣れれば、小学生でも楽しめるゲームです。
まゆ:確かに頭も使うし、競技性もあって面白かったわ。な、とも。
とも:こんな悔しい思いをするんやったら、真面目にまゆの素数の話を聞いておくべきやったわ。
まゆ:今までの私の話を真面目に聞いてなかったんか!
ゼータ:まぁまぁ、お二方、落ちついて。今では素数に興味がなかった人の間でも愛好者が増え、最強のカードを研究している人もいるぐらいです。また各地で素数大富豪大会が開かれています。ぜひ、お二方も鍛えて参加してみてはどうでしょう。おっと、もうこんな時間。早く帰らないと大阪行きの終電がなくなっ…いやいや、王子の魔法が解けてしまう。それでは、お嬢様方、またどこかでお会いしましょう。
とも:あの王子、大阪から来てたんか。わざわざ大富豪やりに。
まゆ:うーん、あのシャツと言い、いきなりの素数の話といい、あの方は、もしかして…。
♥ 脚注 ♥
※1 素数大富豪
2014年に関真一朗氏が考案したトランプゲーム。2016年10月に開催された数学イベント「MATH POWER 2016」では5時間にわたって素数大富豪大会が開かれた。その様子はNHKニュースでも取り上げられ、数学愛好者の間で静かなブームとなっている。
・公式ルール
・考案者によるスライド「素数大富豪」
※2 グロタンディーク素数
数学の一分野である圏論や代数幾何学などに功績を遺したドイツ出身のフランス人数学者アレクサンドル・グロタンディーク(1928〜2014)の逸話から生まれた数。
グロタンディークが素数に関する講演で、具体的な素数で説明を求められた際、素数の例として「57」をあげたというエピソードから、数学者や素数愛好者のあいだでは「57」を「グロタンディーク素数」と呼んでいる。もちろん57は3×19で素因数分解できるので素数ではない。
※3 素数判定にはスマートフォンの素数判定アプリがあると便利。
もしくは当サイトのシンプルな素数判定ページ「Prime」
※4 素因数分解の判定にはスマートフォンの電卓機能や電卓アプリが便利。
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LastUpdate 2020/3/14
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