●姉妹素数とは?
姉妹素数とは、私が勝手に作った造語で、数学の正式な名称ではありません。
ここでは双子素数、三つ子素数、四つ子素数など「姉妹」になるような素数をまとめて「姉妹素数」と呼ぶことにします。兄弟でもいいのですが、姉妹にした理由は後述します。ちなみに数学の世界では「素数k組」(Prime k-tuple)と言います。
さて、この姉妹素数たち。すでに本編でも取り上げていますが、三つ子素数より大きい姉妹素数については、変則的な定義が設けられています。
たとえば、双子素数は2つの素数の差が2になる素数の組ですが、三つ子素数になると3つの素数の差が2ずつになる組とは定義していません。なぜなら、このような三つ子素数は無限に存在する素数の中で「3, 5, 7」の1組しかないからです。素数の研究では変則的な姉妹素数を定義することにより、それぞれの素数が無限に存在するのか、もしくは自然数の桁が大きくなり素数の分布が薄れるに従って姉妹素数の限界があるのかといった研究が進められています。
ここでは、それぞれの姉妹素数について、その定義と、現時点(2024年7月11日時点)でわかっている最大値をまとめてみました。
○双子素数 (Twin Primes)
双子素数の定義:p, p+2
3と5以外の双子素数は必ず6の倍数を挟んでいるという特徴があります(6の倍数の前後が必ず素数という意味ではありません)。これは簡単に証明ができます。
・5以上の素数は必ず奇数です。
・5以上の素数から連続する3つの整数を式で表すとp, p+1, p+2となります。
・つまりpからp+2までの連続する3つの整数には必ず3の倍数が含まていることがわかります。
・双子素数の定義は「pとp+2」ですから、その間の「p+1」は偶数になります。
・3の倍数は素数ではないため、p+1は3の倍数でなおかつ偶数になります。すなわち6の倍数です。
∴双子素数は6の倍数の前後の数字になります。
下記の表では定義の数式のpのみを記しています。ペアになる素数はその数に2を足した数です。
順位 | p | 桁 | 発見年 |
---|---|---|---|
1 | 2996863034895 × 21290000 - 1 | 388,342 | 2016 |
2 | 3756801695685 × 2666669 - 1 | 200,700 | 2011 |
3 | 65516468355 × 2333333 - 1 | 100,355 | 2009 |
○双子素数予想 (素数k組予想)
厳密にはp, p+1も双子素数と定義すべきですが、この組は2, 3しかありません。そこで「隣り合う素数」の差が最小になるペア…つまり差が2の素数のペアを双子素数と定義しています。実は「隣り合う素数の差」は、実は現代の素数の世界において格好の研究テーマとなっています。
双子素数予想とは、双子素数は無限に存在するのではないか…という命題で、これは証明されていません。この研究は双子素数をひたすら探査するだけではなく、整数上に存在する隣り合う素数の差を調べ、それぞれの素数の差を測りながら、その差の素数のペアが無限に存在するのかを証明していくことで研究が進められています。これは双子素数予想だけではなく三つ子素数予想や四つ子素数予想などの解決にもつながることから、これらをまとめて素数k組予想といいます。
本編14話の脚注でも解説していますが、素数k組予想は着実に研究が進んでおり、2013年に隣り合った素数の差が7000万以下の組は無限個あることが証明されたのを皮切りに、2014年には隣り合った素数の差が246以下の組は無限個あることが証明されました。この素数の間隔の差が2になったとき、双子素数予想は解決することになります。
○三つ子素数 (Prime triplet)
三つ子素数の定義:TypeA= p, p+2, p+6,TypeB= p, p+4, p+6
定義を見てもわかるとおり、三つ子素数には必ず双子素数1組が含まれます。2013年に発見された16,737桁の三つ子素数は、2013年4月に双子素数として確定されましたが、半年後の10月に、その双子素数の3人目の姉妹となる素数が確定され「三つ子素数」となりました。
下記の表では定義のpのみを記しています。三つ子になる素数はpと、定義のTypeAまたはBの式に当てはまる数です。それぞれの三つ子素数がどのタイプに当てはまるかは「Type」欄を参考にしてください。
順位 | p | Type | 桁 | 発見年 |
---|---|---|---|---|
1 | 4404139952163 × 267002 - 5 | B | 20,183 | 2024 |
2 | 4111286921397 × 266420 - 1 | A | 20,008 | 2019 |
3 | 6521953289619 × 255555 - 5 | B | 16,737 | 2013 |
○セクシー三つ子素数 (Sexy prime triplets)
2つの素数の差が6になる素数の組を「セクシー素数」(Sexy prime)と呼ぶことは本編でも取り上げていますが、差が6ずつの3つの素数の組(p, p+6, p+12)を「セクシー三つ子素数」と言います。なぜ私がk組素数を「兄弟素数」と名付けなかったか、なんとなくうなずけるかと思います。
具体的には7, 13, 19は最小のセクシー三つ子素数になります。2016年9月現在、最大のセクシー三つ子素数は5,132桁で発見されています。
○四つ子素数 (Prime quadruplet)
四つ子素数の定義:p, p+2, p+6, p+8
四つ子素数は、本編5話でも取り上げていますが、四つ子素数には双子素数2組(「p, p+2」と「p+6, p+8」)、三つ子素数1組(p+2, p+6, p+8)、いとこ素数1組(p+2, p+6)、セクシー素数2組(「p, p+6」と「p+2, p+8」が含まれています。
下記の表では定義のpのみを記しています。四つ子になる素数はpと、pに2, 6, 8を、それぞれ足した数になります。
順位 | p | 桁 | 発見年 |
---|---|---|---|
1 | 667674063382677 × 233608 - 1 | 10,132 | 2019 |
2 | 4122429552750669 × 216567 - 1 | 5,003 | 2016 |
3 | 101406820312263 × 212042 - 1 | 3,640 | 2018 |
○セクシー四つ子素数 (Sexy prime quadruplets)
セクシーな三つ子がいるのであれば、セクシー四つ子素数(p, p+6, p+12, p+18)も存在します。
最小のセクシー四つ子素数は5, 11, 17, 23、2016年9月現在、最大のセクシー四つ子素数は1,002桁で存在が確認されています。確率的素数では1,004桁にも存在する可能性があります。
○五つ子素数 (Prime quintuplet)
五つ子素数の定義:
TypeA= p, p+2, p+6, p+8, p+12,TypeB= p, p+4, p+6, p+10, p+12
下記の表では定義のpのみを記しています。五つ子になる素数はpと、定義のTypeAまたはBの式に当てはまる数です。それぞれの五つ子素数がどのタイプに当てはまるかは「Type」欄を参考にしてください。
また「#」は「素数階乗」の記号です。素数階乗とは、記号の前に記述されている素数まで、全ての素数を掛け合わせた数を示します。たとえば「3371#」は、2から3371までの全ての素数を掛け合わせた数になります。
順位 | p | Type | 桁 | 発見年 |
---|---|---|---|---|
1 | 394254311495 × 3733#/2 - 8 | B | 1,401 | 2018 |
2 | 2316765173284 × 3593# + 16061 | A | 1,543 | 2016 |
3 | 163252711105 × 3371#/2 - 8 | B | 1,443 | 2014 |
○セクシー五つ子素数 (Sexy prime Quintuplets)
セクシーな五つ子素数は5, 11, 17, 23, 29しか存在しません。なぜなら、差が6ずつの5つの整数には、必ず5の倍数が入るため、素数5以外のセクシー五つ子素数は存在できません。
○六つ子素数 (sextuplet primes)
六つ子素数の定義:p, p+4, p+6, p+10, p+12, p+16
最小の六つ子素数は7, 11, 13, 17, 19, 23。現在わかっている最大の六つ子素数は645桁で発見されています。
なお、本編5話でも取り上げていますが、六つ子素数のセクシー素数は存在しません。理由は差が6ずつの整数には必ず5の倍数が含まれるためです。当然セクシーな7つ子以上の素数も存在しないことになります。
○七つ子素数以上
これまで双子から六つ子までの姉妹素数を取り上げてきましたが、それぞれの定義を見ていくと双子素数を除き2つの素数の差は最大で4となるように定義されていることがわかります。
この条件では3, 5, 7, 11, 13, 17, 19は七つ子素数、これに23を加えた数列を八つ子素数と定義できますが、これ以外の七つ子以上の素数の組み合わせは存在しません。なぜなら六つ子素数の前後に差が2以上4以内の整数を付け足してみるとわかります。7つめの数は素数にはなりません。
○いとこ素数
いとこ素数の定義:p, p+4
2つの素数の差が4の素数の組をいとこ素数といいます。コンビニでおなじみの「7, 11」はその代表格です。いとこ素数の命名の理由は「いとこは4親等だから」という説があります。
血縁関係で言えば姉妹でも兄弟でもありませんが、これまでの姉妹素数の定義には欠かせないp+4が含まれていることから、重要な存在と言えます。
なお、最小のいとこ素数は3, 7、最大のいとこ素数は現在最大の三つ子素数(16,737桁)の中に隠れています。
○セクシー素数
セクシー素数の定義:p, p+6
もはや、血縁関係でもなんでもない名前が付けられていますが、2つの素数の差が6の素数の組をセクシー素数といいます。ラテン語で6を意味する「sex」からセクシー素数と名付けられました。
最小のセクシー素数は5, 11、最大のセクシー素数も現在最大の三つ子素数の中に隠れています。
※姉妹素数が出てくる本編の話
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