素数に恋する女

♥第13話♥

素数とはπが出てくる数である

とも:3月9日に全国で部分日食が見られるんやって。こういうのって、理系の人は必ず見るんやろ?

まゆ:以前ほど、わくわく感がないなぁ。この前、金環日食を見たしなぁ。やっぱり、次は皆既日食を見たいやん!

とも:この前の金環日食って、4年ぐらい前やろ。私も見たわー。感動したなぁ

まゆ:日食って、どぉやって起こるか知っとぉ?

とも:私を馬鹿にとーやろw 月が太陽を隠すんやろ

まゆ:そのとーり! じゃあ、次、神戸で見られる日食って、いつか知っとぉ?

とも:前が4年前やから、次はやっぱり4年後?

まゆ:日食はオリンピックやないで! 次、神戸で日食が見られるのは3年後の1月、さらにその次は同じ年の12月やねん

とも:日食も、まゆの好きな素数(アレ)と一緒で、規則性がないんやなぁ…

まゆ:あ、もしかして素数の話をしたがってる?

とも:いや、そんなことは断じて、ない!

まゆ:でもな、日食や月食って規則性がないように見えて、実は周期的に起こってるねん

とも:周期があるよう思えんけどなぁ

まゆ:例えば、3月9日に日食が起こると言うことは、その日は新月やろ。で、次の新月から数えて223回目の新月には、また同じような日食が起こるねん。月食も同じ。月食が起こった満月の次の満月から数えて223回目の満月に月食が起こる

とも:へぇ

サロス周期

まゆ:これを「サロス周期」っていうねんけどな、今、約40系列のサロス周期が同時期に進行しているんで、不規則に日食や月食が起こってるように見えるねん(※1)

とも:まゆはいろんな事、知っとぉなぁ

まゆ:223という数も出てきたことやし、いつもの話をしよっか?

とも:断る!

まゆ:で、オイラーさんって知っとぉ?(※2)

とも:あんた、私の話、聞いてないやろ!

まゆ:日食の話とか月や太陽の話、そして素数ときたらオイラーさんについて語り合わんといかんやん!

とも:何でやねん!

まゆ:本当なら、リーマンさんやガウスさんの前にオイラーさんを紹介しておくべきやったけど…

とも:あ! まゆが、そのオイラーさんっていう人のことを忘れてたんと違うか?

まゆ:そんなことないで! でも「そす恋」がドラマ化されたときは、ガウスさんの話の前に、今日の話をやってもらおうw

とも:ドラマ化の野望はまだ捨ててなかったんか!(※3)

まゆ:まぁね。でもオイラーさんは、すでに「そす恋」にご登場いただいたゴールドバッハさんのメル友やってんで!(※4)

とも:メル友って、いつの時代の話なんやw

まゆ:ゴールドバッハさんとオイラーさんは手紙で素数の話をよくしてたみたいやねん。早い話が、ともと私みたいな関係やね

とも:私は素数の話はせぇへんでw あんたが一方的にしてるんやw

まゆ:ま、まぁ…それで、オイラーさん、ゴールドバッハさんに刺激を受けて素数を見つける数式を考えたんやな

とも:また、なんか、見たこともないような複雑怪奇な式が出てくるんと違うん?

まゆ:オイラーさんの素数式は、めっちゃ簡単

x2+x+41

とも:何これ。身構えてたけど、ホンマに簡単やん。ん? でも、これアカンで!

まゆ:気づいたか!

とも:これ、xに41を入れたら、41で割り切れる数が答えになるんと違うん?

まゆ:そやねん。オイラーさんもそこは気づいてたけど、当時、知られていた素数を作り出す式と比べると、多くの素数が作れる画期的な式やってんで。ちなみにxに40を入れても素数にはならへんねん

とも:へぇ

まゆ:当時知られていた素数を計算できる式といえば、有名なところではメルセンヌ素数の式と、フェルマー素数の式ぐらいしかなかってん。しかし両方とも、計算を進めるとすぐに答えが巨大な数になるんで、その数が当時の計算技術で素数かどうかすら判定でけへんというものやってん。

とも:フェルマー素数? 半年以上、まゆから素数の話を聞かされ続けたけど、初めて聞いたで。忘れんうちに皆さんに説明しとき!

まゆ:わ、わかった。フェルマー素数っていうのは「フェルマーの最終定理」でおなじみのフェルマーさんが考えた素数のこと(※5)

とも:え? 最終定理? 「フェルマーの最終予想」じゃ…(※6)

まゆ:(咳払い) う、うちらが生まれたときから「最終定理」やで(^^;;

とも:そぉやったかなぁ?

まゆ:それはともかく、私の新コーナー「素数姫の算数帳」を見てないやろ! そこにはフェルマー素数について、少し書いてあってんで

とも:そ、そぉやったん? 知らんかったわー

まゆ:まぁええわ。フェルマー素数の式も簡単ではあるんやけど、順番に数を当てはめて計算すると、すぐに数が巨大化するねん。式はこんな感じ

22n+1

とも:2乗にもn乗するんかいな。こんな式、初めて見たわ

まゆ:いや、これは先に2をn乗したあとに2を、それだけ乗するねん。で、この式、nに4を入れるまでは5桁以内に収まってたんやけど、5を入れたとたんに10桁の数になるねん。フェルマーさんは、その10桁の数も素数と決め打ちしたんやけど、オイラーさんが計算して「素数と違うやん!」って見破ったんや

17〜18世紀の素数業界相関図

とも:へぇ、フェルマーはメルセンヌとメル友やったんや

まゆ:あんた、私の話、聞いてたんか!

とも:え、あー。聞いてた…ような?

まゆ:じゃあ、オイラーさんの話に戻るで。オイラーさんは、後のリーマン予想につながるゼータ関数の研究過程で、ある法則らしきものを見つけるねん。

とも:また、ゼータ関数が出てくるのん…

まゆ:オイラーさんの時代は「ゼータ関数」という言葉自体もなかってんけどな、でもな、その法則にはオイラー自身もビックリして、思わず、論文のタイトルに「美しい!」って書いたうえに、数式のところに月や太陽のマークまで付けるほど舞い上がってしもたんや(※7)

とも:そぉいうエピソードがあると、親近感をおぼえるなぁ。今やったら☆彡とか書いてたんやろな。オイラー

まゆ:そのお茶目な論文には、いろんな説があるんやけど、その論文発表の前年にヨーロッパで金環日食があって、それを見たときの感動と同じ衝撃を受けたから…と言われてるねん。事実、この日食の見える範囲を事前に計算していたり、ドイツ王女との手紙のやりとりで、日食が起こる仕組みを説明したこともあるんやで(※8)

とも:昔も今も、理数系の人は日食とか月食が好きやねんなぁ

まゆ:オイラーさんは天文学者でもあるからなぁ。で、話を戻すと、ゼータ関数の素数だけで構成される分数を全て掛け算していくと、その答えの一部に必ず円周率のπが出てくるねん。不思議やろ

素数姫の算数帳:ゼータ関数は難しくない!
→「素数だけで構成されるゼータ関数」はどのようにして生まれるのか

オイラー積

とも:ちょっと待って。素数って無限にあるのに、なんで、全部、掛け算した答えがわかるん?

まゆ:え、そこ? ここは「なんでπが出てくるん?」やろ?

とも:無限の数を全部掛け算した答えがわかるっていうのがわからん

まゆ:それは「無限積」といって、特にゼータ関数の無限積は「オイラー積」っていうんやけど、計算を続けていけば、ある答えに限りなく近づいていくねん

とも:んー、納得できんけど、まぁええわ。じゃあ、なんでπが出てくるん?

まゆ:わからん!

とも:なんやねんな!あんたが言ってきたんやろ!これ!

まゆ:怒りなって。話す順番があべこべになるけど「リーマン予想の非自明なゼロ点の並び方」と同様、素数に何らかの規則性があるのではないかと考えられてるねん。リーマン予想もゼータ関数なら、オイラー積もゼータ関数。ゼータ関数の登場で、素数業界は素数を探すことよりも、素数の規則性を探す方向に変わってきたんやね

とも:へぇ、そーなんや

まゆ:とももオイラー積を勉強したら、身をもって、わかるかも知れへんで。πが出てくるのが

とも:(゚Д゚#)ハァ?

素数姫の算数帳:ゼータ関数は難しくない!

♥ 脚注 ♥

※1 サロス周期
 サロス周期自体は紀元前6世紀頃、メソポタミアの部族・カルデア人の間で知られていた。
 実際のサロス周期には8時間のずれがあり、同じ場所で223回目の新月や満月の日に日食や月食が見られるとは限らない。8時間のずれは地球1/3周分に相当するため、1周期ごとに食が見られる地域は西へ120度ずれる。

※2 レオンハルト・オイラー (1707〜1783)
 スイスの数学者・天文学者。「世界一美しい等式」と言われる「オイラーの等式」= eiπ + 1=0 で有名(自然対数の底に虚数と円周率を掛けた数を乗じ、その解に1を足すと0になる)。
 数学者になってから右目を失明しつつも精力的に研究に没頭。60代には両目を失明する憂き目に遭うが、それでも口述筆記で数々の論文を書き上げ、現在もこれらの偉業は数学界の金字塔となっている。

※3 「番外編2話 徹底討論!?ドラマ化、漫画化、映画化を目指すには」を参照のこと。

※4 「第8話 素数とは整数の素となる数である」を参照のこと。

※5 ピエール・ド・フェルマー(1607?〜1665)
 フランスの数学者。「フェルマーの最終定理」などで、その名を知られているが、本職は弁護士。数論、幾何学、微分積分学の発展に数々の功績をのこしているが、これらの研究は弁護士の業務の合間を使って行っていたという。

※6 フェルマーの最終定理
 「nが3以上のとき、xn + yn = zn となる自然数x, y, zは存在しない」という簡単な定理。しかしこの予想は350年以上も証明されることはなかった。
 証明されたのは1995年のこと。この年までに学校で習った人は「フェルマーの最終予想」と…(検閲済み)

※7 オイラーの論文と金環日食の関係
 オイラーが1749年に発表したゼータ関数(当時はゼータ関数という名前はなかった)の論文のタイトルには「beau (美しい)」という単語が入り、論文中の数式には月と太陽のマークが付けられていた。月と太陽のマークは現在のゼータ関数を表している。この論文の演出には自らの研究成果が、前年の金環日食を見たときの感動と同じ衝撃を受けたからではないかという説がある。
→参考リンク:オイラーとゼータ関数〜オイラーのゼータ値と1748年の金環日食について (高橋浩樹・徳島大学大学院教授のサイト)
→関連リンク:オイラーが見たと思われる1748年7月25日の金環日食帯 (NASA)

※8 オイラーのドイツ王女への手紙
 天文学者としてのオイラーが、ドイツ王女へ「影」についての説明する手紙の中で、日食の仕組みについて触れている。
→参考リンク:自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙 “手紙36 -影について”

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Last Update 2016/2/27 © 2016「素数に恋する女」製作委員会 All Rights Reserved.