素数に恋する女

♥番外編 第7話♥

愛し合う数字たち

2016年2月14日、神戸市内の(いつもの)某所…

まゆ:バレンタインデーが日曜日でよかったなぁ。職場の男どもに義理チョコあげんでええもんなぁ

とも:私は週末に義理チョコを絨毯爆撃のように撒いたで…っていうか、なんでまた私の家に来てるんや!(※1)

まゆ:今日みたいな日はともも暇やろなーと思って、話し相手になりに来たんやん。悪い?

とも:余計なお世話や! もし私がデートでお出かけしてたら、どーするつもりやったんや

まゆ:それはないから大丈夫

とも:私の恋愛について、他人が断言するな!今年はええとしても、来年は…

まゆ:まぁまぁ、落ち着いて。今日はバレンタインデーらしくチョコも持ってきたし

とも:私は女や!

まゆ:何言うとー!「友チョコ」って知らんの?

とも:ともチョコ?? んー? それっておいしい?(※2)

まゆ:おいしいに決まってるやん! 私一押しの岡本のチョコレート屋さんで買ってきたんやで!(※3)

とも:わかった。で、友チョコって何なん?

まゆ:女友達に贈るチョコレートのこと。言っておくけど、変な意味やないで

とも:へぇ。そんなんがあるんや。じゃあ、ありがたく戴くわ

まゆ:来年はお互いに男性に本命チョコを贈れるようにしたいもんやなぁ

とも:ほんまやねぇ。しかし、まゆは高校の頃、うちらの仲間ではモテたほうやのに、なんで今もシングルなんやろ。不思議やわ

まゆ:うぬぼれてて、選り好みしてたんやろなぁ…

とも:まゆはナルシストなところがあるもんなぁ。未だに自分のことを姫とか言ってるし

まゆ:あ、そういえば「ナルシスト数」って知っとぉ?

とも:また、強引に素数の話をしようとしてるな。自分のことを棚に上げてw

まゆ:ナルシスト数って素数と違うで。中には素数もあるかもしれんけど

とも:じゃあ、何なん?

まゆ:ナルシスト数っていうのは、ある数の桁数をnとすると、その数字を桁ごとにバラして、バラした数をn乗する。そして、そのn乗した数を足しあわせて、合計すると、あら不思議、元の数に戻っちゃう

とも:んー、よぉわからんなぁ

まゆ:例えば「153」という数があります。これを「1」「5」「3」に分けます。そして、それぞれの数を、元の数の桁数である「3」と同じ回数分、掛け算します(13,53,33)。この数を足しあわせると「1+125+27」となって、その答えが元の数である「153」になる…というわけ

ナルシスト数

とも:まわりくどい数やなw なんで、そんな数がナルシストなんやろ?

まゆ:確かにそうやねー。完全数のほうがストレートにナルシストっぽいよね(※4)

とも:私には、どっちも理解できん。ナルシストの語源は、池の水面に映る自分の顔に一目惚れして、池から離れることができずに死んでしもた少年の名前やろ(※5)

まゆ:ちなみにナルシスト数は87個しかないねん。ナルシスト数は、数の桁数と、その乗数に支配されているんで、ある桁数を超える数では存在でけへんねん。これは簡単に証明できるから、私に彼氏ができて、1人ぼっちのともの話相手がでけへん時に、暇つぶしで証明してみるとええわ (※6)

とも:なんでやねん!まゆはナルシストというよりエゴイストやな!

まゆ:ちなみに1桁の数は全部ナルシスト数やねんで。1桁と1乗で計算できるから

とも:まゆは昔、モテたのに、未だにシングルなのは、デートでこんな話ばかりしてたからやろw デートでリーマン予想の話とかしてたら、彼氏、引くでw

まゆ:失礼な!素数の話は女同士でするに限るやん

とも:意味がわからんわ!

まゆ:でも、今日は素数の話はせぇへんで

とも:じゃあ、恋バナでも聞かせてくれるんか?

まゆ:恋バナなぁ…。あ、「友愛数」って知っとぉ?

とも:また、この流れかw

まゆ:ともが友愛数を知らんはずはないで。なぜなら、去年、私に『博士の愛した数式』(小川洋子著、新潮文庫)を貸してくれたんやから(※4)

とも:その友愛数っていうのは、つまり『博士の愛した数式』に出てくるってことやな

まゆ:その反応やと、忘れてるな

とも:本を持ってくるわ

まゆ:いや、その必要はない。忘れたんやったら、私が教えたるわ。博士の家政婦さんの誕生日は2月20日。博士はこれを「220」と読み替え、博士は自分がはめている腕時計に刻まれた「学長賞No284」の文字を家政婦に見せて、友愛数の説明をするんや(※7)

とも:私が貸した本の内容やのに、克明に憶えてるなぁ

まゆ:つまり、友愛数っていうのは、2つの数があるとすると、それぞれ自分自身を除いた約数の合計が、お互いに相手と等しくなるような数のことをいうねん。220の自分自身を除いた約数(1,2,4,5,10,11,20,22,44,55,110)を足した合計は284、284の自分自身を除いた約数(1,2,4,71,142)を足した合計は220になる。つまり約数で2つの数字は結ばれてるねん

友愛数

とも:へぇ。そんな結びつきがあるんやったら恋人数という名前にしとけばロマンチックやのに

まゆ:恋人数っていうのは聞いたことがないけど、友愛から恋人を飛び越えて「婚約数」っていう数はあるで

とも:ほんまかいなw

まゆ:異なる2つの数字で、お互いの自分自身と1を除いた約数の合計が、相手と同じ数になる数を婚約数っていうねん。たとえば、48と75は婚約数やねん。48の1と自分自身を除いた約数(2,3,4,6,8,12,16,24)を足した合計は75。一方、75の1と自分自身を除いた約数(3,5,15,25)を足した合計は48。すごいやろ

とも:婚約という割には、約数から1を除いた分、友愛数より親密度がないような気がするなぁ

婚約数

まゆ:不思議なことに、これまで発見されている友愛数は偶数のペアか、奇数のペアに限られてるねん。で、婚約数はなぜか偶数と奇数のペアばかり

とも:あー、なんかわかったわ。友だちは気の合う者同士やけど、結婚相手は自分の持ってないものを相手に求めて、結びつくんやろなぁ…だから婚約数なのかも

まゆ:ともって意外にロマンチストやねんな

とも:意外やない!私の真の姿や!

まゆ:でも、友愛数は偶数か奇数のペアで、婚約数が偶数と奇数のペアになる…というのは実は証明されてないねん。せっかくの想いをぶちこわすようやけど、もしかすると、今後、奇数と偶数のペアの友愛数や、偶数同士、奇数同士の婚約数が見つかるかも知れへんで

とも:今の発言で、まゆから男が離れていく理由がわかったわ!

まゆ:?!

素数姫の算数帳:フレンドリーな数字と犬猿の仲の数字

♥ 脚注 ♥

※1 「第12話 素数とはみんなで見つける数である」を参照のこと。

※2 「そすこい」愛読者の方なら周知の事実であるが、ともは、自分のわからない単語が出てくると、とりあえず「それっておいしい?」と聞くことにしている。

※3 岡本
神戸市東灘区にある阪急神戸線「岡本」駅界隈の学生街。ブティックや雑貨屋、洋菓子店が建ち並び、関西の女子大生文化の発信地とも言われる。まゆも学生時代からの馴染みの店があることから、社会人になった今も立ち寄ることがある。

※4 「第9話 素数とは完全数とともに愛すべき数である」を参照のこと。

※5 ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスのエピソード
このエピソードの主人公・ナルキッソスの名前がナルシスト(正確にはナルシシスト)の語源である。ちなみに同じ語源である「ナルシシズム」は病的な自己愛、自己愛性パーソナリティ障害を意味する。

※6 ナルシスト数の限界
 最大のナルシスト数は39桁の数字であるが、計算上、ナルシスト数は60桁以上の数では存在できない。まゆが言うとおり、ナルシスト数は数の桁数と、その乗数に支配されているので、比較的簡単に証明することができる。
 逆に、たった2桁のナルシスト数も存在しない。
→関連リンク:Narcissistic Number (Wolfram MathWorld)

※7 小川洋子著『博士の愛した数式』新潮文庫版28〜33ページを参照のこと

素数姫の素数入門

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LastUpdate 2016/2/11
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